Can't Help Falling In Love

舞台の感想とかネタバレ含め色々

有栖川有栖先生原作の「46番目の密室」が舞台化したので見てきた話。

1992年に発行された原作「46番目の密室」は、当時学生だった私が恐らく初めて自分で買ったミステリ小説だと思う。
赤川次郎先生は祖母が好きだったので家にあったし、ホームズやルパンなどは図書館で読み漁っていたので自分で購入したミステリは初めてだったのではないかな。
同時期に島田先生とか綾辻先生とか京極先生も読んでたけど、多分最初に買ったのはこの本だと思う。 
友達から借りて面白くて、自分でも読み返したくて買ったんだと思う。学校帰りに制服で。
(ちなみに当時周りの友達は小説を読む人が多く、色々貸し借りをしていたなと思いだした。若木先生のオーラバとかイズミとか秋月先生のワンダーBOYとか霧島先生の封殺鬼とか折原みと先生とか……ミラージュも途中まで読んでた) 
そんなころからの(勝手な)お付き合いである有栖川先生の原作であるこのお話が、舞台化するとなったらどうしても気になってしまって。
同時に不安もあったので(失礼。でも火村と有栖が歌う!?って心配だった)、とりあえず初日開けの二日目にA席だけとったんですけど……
見に行って帰りにすぐリピチケ買ったくらいなので、結論から言えば「とても良かった」です。


以降だらだらと書きます。
多分暫く思い出しては追記するかもしれない(笑)

 


■「歌劇」という魅せ方
そもそも歌劇にする意味あるか?と言われればそうかもしれないけれど、歌にすることで余計なト書きというか、説明的な様子を入れなくて良くなるのは一つの魅せ方じゃないかな、と思った。
ストプレだと重くなりすぎる気がするし、ミュージカルにする題材でもない。
でも歌劇、という括りだと台詞を歌で表現する、という形になりオペラになるからなんかこうしっくりくる。
台詞を全て歌に乗せるのではなく印象的な特徴的な部分が歌になり、軽快に進むのが新鮮で面白くて、重すぎず軽すぎずで馴染みやすい感じがした。
舞台で突然歌うのが好きじゃないって層はいると思うけど、なんかこう違和感がなかったので、次もぜひこのスタイルで見てみたいな。

 


■火村と有栖
火村の性格や仕草が原作に近く、前半は借りてきた猫のようで犯罪談義では熱が入りどこか取り憑かれたような危うさをネクタイを触り首を触る仕草でそっと抑え、後半はうろつきながら何かを考え整理し導いていく姿、30年前に出会い好きになった火村英生という登場人物が目の前にいる、と思った。
有栖とのやり取りも言葉少なだけれどこの気安さがリアルな10年来の友人であると感じさせ、有栖もまたしっかりと考えている様子が、推理作家であり、火村のサポート役と言うだけではない感じを表現されていて本当に良かった……。
火村と有栖というバディがずっと好きなので、井澤さん、矢田さんのいい意味でドライな演技がとても良かったです。
三十代の落ち着いた親友(という関係とはまた違う気もする。友達、で腐れ縁、なのか。なんだろう親友って言葉じゃ違う気がするんだけどとりあえずこの名称で)との距離感というのが見えてよかったなぁと。
火村先生が大好きだったので、もうずっと火村を追ってたんですけどもうなんかねーーずっと火村なんだよね。
冒頭の「私が連れてきた火村英生」の紹介でスポットライト当たるじゃないですか、その時の立ち姿とか。有栖が倒れたあとの扉から出て来た時にそっと唇をなぞる指とか!
グラスをカウンターに返す時にお礼を言ったり、フーコ先生に迫られて嫌な顔してその後有栖になんか言ってるとことか、火村だーーーなんですよね。
それなのにカテコでぐだる井澤さん最高すぎた。可愛い(笑)
井澤さんの歌が少なくて残念だなと思いつつも、星火のとこのコーラス凄くいいのでこのくらいがちょうど良かったな。
有栖は美しい……って間近で見た時思ってしまった。メインビジュアルで出た時よりも本番の髪型の方が有栖感あって良かった。
矢田さんは以前から別の舞台でも見てるので(いや井澤さんも見てるんだけど)芝居の入り方というか、キャラクターの解像度はあまり心配してなかったんだけど、期待以上に有栖だった!
わたしは矢田さんの配信見てないんだけど、有栖は前半後半で少し演技変えてるようなことお話されてたようで。
冒頭のワープロパチパチしてたり、途中でもパチパチしてるのは「俯瞰で見てる」からだと思ってたので、矢田さんが事件が起こる前は書き手で、後は話の中に有栖も入ってると思って演技してる、というような話をされたと聞いて、その感覚は間違ってなかったんだなーと思った。
5月7日のカレーライスの話はこの後するとして、有栖の星火荘の歌がとても素晴らしかった……。矢田さんの声の美しさ、音楽の美しさ。台詞ではなく歌に乗せることで彼らの感情が伝わる気がして。
有栖って火村のバディでただ優しいとかおっちょこちょいな助手ってだけでも無くて(いやおっちょこちょいではあるが)結構ズバッとものを言うし、しっかりしてるとこもあるんだよなーーっていう原作の要素を、矢田さんがとても上手く表現してくださってて本当素敵だった……
なんかまだまだ火村と有栖のことは語れる気がするけど言葉が纏まらないのでこの辺で(笑)

 


■原作との相違
原作をずっと愛していた身としては変わった部分(アブソルートリーや暗号)は少し残念に思ったり、冒頭の火村先生の講義シーンも欲しかったと思うのですが。
でも、元々あの火村の突然出てくる英語とかって、文で読むから面白いのであって、耳で聞いて理解をする舞台では英語よりも日本語の方がわかりやすいですし誤解もされないよなあと思うので改変されて良かった派です。
あと、冒頭シーンは彼ら(火村と有栖)が異色の組み合わせであること、親しい様子が伝われば良いということであれば省けるな、と違う視点で見れば理解もできたので、2時間と少しに収める制約の中で、取捨選択は見事だったと思います。
また、石町が十字架のようなスポットライトの中で崩れ落ちるところ、彩子の歌が切なく美しかった。原作では彩子はもしかして知っていたのか、と思われる描写は多くなく、けれど舞台化され歌での表現が加わったことで、もしかして彩子は気づいていたのか、と思う余白ができて良かったです。
あと暗号の変更は良い改変だったな……
原作の謎解きという感じではなく、そこに明確な意図がある感じが。真壁はモーツァルトで、石町はサリエリだった。純粋な愛と呼べるものでは無いのかもしれないけれど、ただ憧れ尊敬し愛してやまなかった。それ故に恐れ憎んでいた。神に愛された天才と神に愛されなかった秀才のことを知っていると、この例えを石町が出したことがどれだけの苦しみだったのか、分かる気がする。
石町が最後、有栖に真壁の最後の密室トリックを「俺だけのものだ」といっていたけれど、彩子を好きと思う気持ちと真壁を愛する気持ちはどちらも捨て切れなかったんだなぁと感じた。凄まじい独占欲の塊だったあの時の石町。
そういう他の人には分からない欲にかられて犯罪者は罪を犯すんだろうな……
とか色々ぐるぐる考えるけど、それだけあの最後の石町と火村のやり取りあたりの熱量がすごくて、火村と有栖の煙草のシーンが終わったあと、暗転中に毎回思い出したように息を吐いてた。ずっと息止めてたっていうかなんかこう張り詰めた空気の圧が凄くて。
原作を一気に読んだ時の「読み終わった!」感のあるラストシーンだったなと思う。


■音楽と演出とセット
音楽はどれも素晴らしかったな……
何度か同じフレーズが出てくる感じ、どこかコミカルな感じの曲も面白くて、いまだに頭の中をぐるぐるしています。
特に火村と有栖が謎を数えるシーン、母娘のすれ違い、杉井と船沢のシーン、石町の告白あたりが好き。
ただのミュージカルではなく歌劇とした意味合いがわかるような、台詞が音楽となって降ってくるような気がしました。
あと、カレーライス記念日があんなに微笑ましい音楽と演出になるなんて思っていなかったので、約30年前の自分に驚くよと伝えたい(笑)
いやマジで本当あれを歌で?何故やろうと思った???ってなるんですけど、歌にしてくれてありがとうな感じ。これから毎年あの歌思い出せばいいんですよね!
原作読んだ時も、「こんなに鮮明に覚えているなんて、よほどのことだったんだろう」と思っていたし、比較的最近発売された「カナダ金貨の謎」に収録されている「あるトリックの蹉跌」でさらにその後のやり取りが発表され(っていうか、シリーズ1作目に出てきたエピソードを、20数年経ってさらに解像度上がるエピお出しされるなんて思わなくないですか。私はめちゃくちゃ驚いた)やはり(作中の)推理作家有栖川有栖にとって初めての読者である火村はでかい存在なんだなーと思っていたんですけど。
こんなキラキラした青春の思い出として描かれるとは(笑)
心なしかあそこの火村は柔らかい表情で有栖のことを見ていて、若さを感じました。青時代の火村と有栖……
細かい小道具も面白かった。ワープロが各所にあって、前述の前半の俯瞰者である有栖が使っているんだけど、バーカウンターの所と、階段下、CDコンポの横、2階の廊下の端。全部で4台かな。近い席から見た結果、当時売ってたワープロだったと思う。
CDコンポの横には、有栖川先生の御本も(ちなみにちゃんと作家有栖が書いている学生有栖の本だった)
そうそう、セット自体も面白く、有栖が殴られた前後で客室の中が見えるようになったのがとても面白かったです。
正直箱が広いなと客入りを見て感じましたが、このセットでの見せ方は他ではなかなか出来ないですね。
奥行きのあるセット、パズルのように配置されていく部屋と階段、暖炉。動きが出ることで登場人物が移動し時間が経っていることも視覚的に理解ができるので良いなと思いました。
また、どうしても誰かと誰かが会話していると他の人は出てこなくなりますが、部屋の様子がわかることにより、あの時誰が何をしていたのか、どんな心境であの火村と有栖の謎解きの間過ごしていたのか、が分かり面白い演出と感じました。
演出としては最後火村がタバコを吸い、ライターをカチカチと付けるところがたまらなく好き。
原作の終わり方もとてもいいなと思っていたけれど、この後ろ姿で終わる感じはとても綺麗だった。
火に始まり火で終わるこのシーンが美しく悲しくもあり、火村の孤独というか孤高の存在を視覚的に見た気がしました。
そしてそれをこの物語を全てワープロから消し去り、火村からその弔いの火なのか憎悪の火なのか、わからないそれを奪い取りタバコをねだるいつもの有栖がいることが、火村の心を少し救ったのだなと思うあの空気感がとても良かった。
あのシーンをずっと眺めていたいなと思ったので、全景で円盤に収録してください。
本当あのシーン、とても良かった……。
なんかこう、「狩人の悪夢」の最後の火村と有栖を感じさせる気がしたんですよね。
この「46番目の密室」の時点では描かれていない関係性ではあるんだけど、今の火村と有栖の関係性を語るのにこの「狩人~」の話が結構大事だと思っていて。
順番に読んでほしいのであれなんですけど、今回で火村シリーズにハマった方々、この話までたどり着いて欲しい……
2時間15分で休憩なしというのも良かったよね。途中休憩が入ることでまた集中できるという事もあるんだけど、でも一気に見る方が世界観に浸れてよかった。
有栖が事件現場で倒れた前後で空気が変わるのでそこで一回リセットされる感もあったし、ダレずに見られた気がする。
楽しかったなほんと……

 


■物販と後出しされたアフタートークや配布物
これはまあ愚痴なのであれなんですけど。
個人的には、物販に関しては1階席の上の階かな?にあるの吹き抜けの辺りの分かり易いとこでの販売の方が分かりやすく、サンプルも見やすかったんじゃないかなーーと思ってしまった。
てか、サンプル2日目は机の上に出てなかった気がするので(2日目は壁のホワイトボード?に貼ってあった)机出して見やすくするのは買おうかなと思わせるには大事よ、と思ったりした。
帰る人の波を逆流して買いに行くのは少し大変だし、きっと初日はグッズ列はけさせるの大変だったのでは?と思った。(見てないけど)
そこ(物販の売上)で集客するものではないと運営側が判断していたならいいんですけど、グッズはほら、買わせてなんぼじゃないですか。
今回特にランダムもあったわけだし(コンプリセットがあったら欲しかった)ちょっともったいないかなと思ったので一応書いておく。
あと、アフタートーク有栖川有栖先生の登壇はもう少し早めにお知らせをいただきたかった……!!!
そもそもまあチケット発売時にアフトとか特典ってのは大体発表されないものとわかっていはいるんですが。(基本的に売れてない時間の公演に後から入れるのが常だから)
でもどうしても見たいアフタートークというものもあるわけで。
急に月曜日を休みにすることは出来ず泣く泣く諦めましたが…原作ファンとしては聞いてみたかったというのが本音です。
見に行ったのが偶然にも火村と有栖のサイン入りポスカ配布日だったので、それがそろったのは嬉しかったですが、有栖川先生の話聞いてみたかった……。
次あるなら頼むよ先に教えてくれ……どうにかして休むから……

 


■KAAT劇場
KAATは元々結構好きな劇場なので(近いし)舞台に高さがあるのでいいなーと思っていたんですけど。
だからこそのセットだと思うし!良かったと思う!
ただ、今回の席の区分け(値段)はちょっと気になったな、という感想。
1回だけ3列目のプレミアムシートに入りましたが、上手端だったのでバーカウンターにはばまれ奥の演技が見えませんでした……うそでしょ奥の人見えないやん!になったので、セットも気を付けてなあ。という気持ち。
代わりに有栖のワープロ打つ背中見てましたが。(ちゃんと当時のワープロだったから観察した)
プレミアムシートはセンターブロックだけの方がいいのかなと思います。
3階がA席なのはまあ分かるし、2階はぎりぎりS……いや、A席かなあみたいな感じ、ここは区分としては許せる範囲かな。
チケット高くなってるのはもうこの業界みんなそうですしね……

 

うだうだ余談も書きましたが、井澤さん矢田さんのコンビで継続して、このクオリティを保ち変なお遊びなどなく歌と芝居で見せる舞台をぜひもう一度ほかの話で見てみたいなと強く思いました。
2.5舞台もストレートプレイもミュージカルも何なら歌舞伎とか古典芸能とかも好きだけど、今って20~30年前に流行ったものを題材にすることが多くて、かつて世代だった人間としては見てみたいと思うものの、思い出を崩されたくないという思いもあってですね……とても難しい。
だから本当に心配をしていたんですけど、キャスト的には歌が心配ないのはわかっていたので後は脚本と演出に掛かっているぞ!と思っていたら本当に良い改変を(少なくとも私はこの脚本でよかったなと思っている)して下っていて、作品をないがしろにしていないなというのが伝わったのでとても良かったなと思っています。
火村シリーズの舞台化、本当に良かった!関わってくださったすべての皆様ありがとうございました!!!!
円盤のお知らせ待ってます!クリスマスに見たいです!!!!!!(無茶を言う)
あと!ビジュアルも最初の告知のものよりも舞台での髪型の方がとても良くて、舞台写真も欲しかった…と思ったので、ぜひ円盤発売のおりには特典で付けてください!!!!
あとあと!来年「ダリの繭」か「朱色の研究」か「スウェーデン」あたりで2作目やりましょう。井澤さんと矢田さんのスケジュール押さえてくださいお願いします。何卒!続編を!


色々とオタクは欲張りです。