Can't Help Falling In Love

舞台の感想とかネタバレ含め色々

雪組「fff―フォルティッシッシモ―/シルクロード~盗賊と宝石~」全体感想②

昨日の続きで今回は「fff」の内容についてもう少し。
今回もネタバレですが、主要な登場人物とか存在とか概念的なものを自分なりに言語化
 
 
*小さな炎
ルイがブロイニング家にお世話になることになり、本を貰った時に灯った小さな炎。
(余談ですが、それをゲルハルトが『ほら、あれだよ』という感じに指さしていくのがとても好き)
そのあと、革命が起きゆっくりと炎が青年になったルイの周りを明るく照らしていく。
ここは暗かったルイの人生に”光が見えてきた”という感じかなと思います。
オレンジ色のひらひらとした布をまとい、時にやさしく、時に激しくルイの周りにいる炎。
あれが彼の気力というか魂の力の表現だったのだなと思う。
音楽で悩み、対人関係に悩み、辛い時には光はあまり当たらない。
そして絶望の時にはついにその光は闇に囲われるようにして、消えてしまう。
(この闇の存在は序盤から謎の女とともにいて、彼女が厳しい言葉で真実を突き付けるときにもいたりする)
演じていたのは、退団が決まっている笙乃さん。
軽やかで美しい舞でした。
 
*オーケストラ
オープニングでオケピにいる人たちでルイの音楽のエネルギッシュさとか、音をビジュアル化したときの感じなのかな。
炎と同じくオレンジっぽい衣装で、明るく楽しそうな雰囲気。
途中音楽は民衆のものか、貴族のものかで対立するときは民衆側のイメージとして出てくる。
歌い続けろとルイが自分を鼓舞するときにも出てきたりしてたかな
彼らは実在の登場人物というよりも”音楽”なのかな。
 
*大天使と音楽家 
自分たちが天国に行きたいからルイに音楽をやめさせようとする(耳に詰め物をしてしまう)すでに亡くなった音楽家たち、という図式がちょっと怖いなと思うのだけど。
もともと史実でもベートーヴェンの難聴の理由は明らかにはなっていなくて、鉛中毒とか骨の肥大による圧迫とかまあいろんなのが出てくるので、今回のルイはそういうこと、なんでしょう。
最終的には大天使も認めた音楽を世に残したルイはおそらく天国に行ったのだろうと思うのですが、果たして天使やモーツァルトたちは必要か?という気もする。
けれどお話し的に彼らがいないとずっとシリアスなシーンが続き、場面も暗くなっていくので、コミカルな3人の音楽家や、意外とお茶目な大天使様たちはキャラクターとしては必要なのでしょう。
貴族のため、神のためでもない、生きている人間のための音楽を作ったルイの物語は、人間って素晴らしい!みたいなことを謳っているお話だとも思うので、対立する貴族・神の存在を表現していたのだと思います。
(しかし、この音楽家たち可愛いのよね、自分たちの肖像画のところに立ってみたり、石像に成りすましたり、ベンチ持ってきて座ったり……目が足りん)
 
*王や貴族
上で書いた通り、神や貴族ではない人間のための音楽を作る、という対比としての”権力の象徴”ですね。
ルイにとっては忌むべきものなので、彼は不遜な態度を取り続けるのですが、ゲーテはそうすることは自分のすべきことではない、とわかっていてきちんとそのあたりの礼は守ってるんだよね。
貴族のための音楽も神のための音楽も別に悪いものじゃないと思うのだけれど、あの中では「みんなが楽しむもの」として人間のための音楽を作ることを、是としている感じですね。
しかしせっかくパトロンになってくれた人も邪険にするなんてそこベートーヴェンが悪いのでは…って思ってしまったよね…(綾さん素敵だったから余計に)
 
*ナポレオン
ゲルハルトが故郷に残した親友であるならば、ナポレオンは魂の友というべきか。
実際にあったことはないけれど、逢ったとしたらきっと気が合っただろう、という描写があの寒いロシアのシーンだと思うんだけれど。
こんな風に時を過ごしたかもしれない、という運命の女が見せた幻のようなもの、だと思う。
人間のために先を見据えて戦っていたナポレオン、人には理解できない孤高の存在、というのはベートーヴェンと近しいものがあったのだろうと思う。
ゲーテも冒頭で二人を紹介する側にいて、二人とそれぞれ会話をするのは、それを感じていたからでしょう。
ロシアのところの「すごいな!」って音楽と隊列の話をしているナポレオンはなんだか普通の人のように感じた。(いい意味でね。怖い人だけじゃないんだなって感じ)
 
大人だ―――――――ってのが印象。
もちろん史実としても年上なのですが。喋り方やルイを宥める様子が大人でした。凪様格好いい……。
ゲーテは上にも書いたけど、客観的にベートーヴェンナポレオンを見た人だった感じですね。
「それが本当にあなたが言いたいことか」というような問いかけや、「真実を伝えたくなる人だ」とナポレオンに語り掛けたりと、諭すような感じでありながら、強制的ではなく、真実を告げてくれている(寄り添ってくれている)感じがしました。
それは演じている凪様の優しい感じと似ているような気がします。
二人を見守るお兄さんの様な、そんな感じもしました。
 
*好きになった女性
ロールヘンは実際ブロイニング家の長女で、ルイとほぼ同じ年でありながらピアノを教わっていたのでこのあたりは史実通りですね。
実際の名前はエレオノーレだし、ゲルハルトとの間に二人の息子がいたはずなので、上記以外のところは創作ですね。(ロールヘンの死についてはおそらく幻想と考えています)
ジュリエッタは月光を送った相手として有名ですが、その時にはすでにベートーヴェンは40歳近かったはずです。
なのでそう思うとあの時のゲルハルトは40過ぎている…。
いやでも、ロールヘンが妊婦ってことを考えるとそのあたりの「歴史」はさておき、の物語ですねやっぱり。
どちらにもルイは「振られてしまう」わけですが、その失恋も彼の心に闇を深くします。だからこそ、強い音楽が生まれたのかもしれないけど、ちょっと切ない。
10歳くらいで親元とは疎遠になりブロイニング家にお世話になっていたルイなので、優しい女性や認めてくれる女性にあこがれたんだろうなと思います
 
*故郷の親友
ゲルハルト。医者だけど白衣じゃなかった残念……。(そこ)
ちなみにルイより5歳年上です。なので後年のゲルハルトはめちゃくちゃ落ち着いてて大人の男って感じ。
この人はルイとベートーヴェンを呼ぶ大事な友達で、史実としてもそれに感謝する手紙がベートーヴェンから送られたりしているので、そこは強調したい部分だったのだなと思います。
自分を救ってくれて(衣食住的にはブロイニング家が救ってくれたのだが、心情として)背中を押してくれて、親身になってくれたのは、音が聞こえなくなり孤独を感じていたルイにとっては救いだったのだろうなと。
戻って来いという手紙にもやや反抗的ではあったけれど、本当は嬉しかっただろうな……と勝手に思っています。
最後しんどくなったときに帰ろう、と思ったのは彼のいる故郷だったし。
ロールヘンの手紙を最後に、ゲルハルトが読んでくれるシーンがあるけれど、あそこの語りがすごくいいなと思っています。
あの光の中で、ルイと共に過ごしていた時代のイメージだろう、若かりしゲルハルト(そして途中からロールヘンも)が、最後にルイに語り掛けるのが、彼にとっての”人生の中で出会った喜び”の象徴みたいな感じで。
あと、ブロイニング家でピアノを教えているシーンで、「Fが三つだから、フォルティッシッシモ!」とゲルハルトが言うのですが、その時に「変なの」と憎まれ口をたたくルイに、『そんなこと言うなよ』って言っている学生のゲルハルトがめちゃくちゃかわいいから見てほしい。それにちょっと笑ってるルイもかわいいから、心許してるんだなってのがわかる。
 
*運命という名の謎の女
この物語のキーですね。この世のすべての苦しみと悲しみを集めたもの、でありながら、ルイに寄り添い支える女。
辛い時に現れルイに辛い言葉を投げかけて追い込む”疫病神”に見えるけれど、黒い服でいた彼女が明るいピンク色のドレスに着替えるのは、あの時からルイは彼女を”自分とともにある者”だと認めてきているからだと思うんだよな。
だから、明るい色に着替えているのかなって。
ナポレオンの描写の後は、はだしでボロボロの黒というかグレーの様なワンピースになり、整えていた髪もボサボサになっている。
それはルイの心情も弱って、ボロボロだったからだろうと思う。
ナポレオンとの会話やロールヘンの死はおそらくルイの願望であり、謎の女が見せた幻想であり、一つの”あったかもしれない未来(もしくは過去)”だったのだと思う。
そこから解き放たれて、自分自身を受け入れて、悲しい時にも辛い時にもそばにいた女を抱きしめたときに、音楽は完成する。
悲しみは喜びに代わり、黒→ピンク→グレー→ときて、白の美しいドレスに変化する。
わたしは雪組にスコーンと落ちたのは、壬生義士伝からだし、だいきほをずっと追っているわけでもないのだけれど。
もっと高みへ、と進んできた特に音楽に秀でた望海さんをずっと陰で支え、そして時には先導するような強さを持つきほちゃんがいる、という関係が今回のベートーヴェンと運命という名の女の二人に重なって、これは彼女たちのための話だなあと思ったのでした。
個人的に黒のドレスの時の、レースのワンピースに見せかけて中はパンツルックだったのが好きでした。
 
 
お話し的には①に書いたんですけど、もう少し補足。
 
ボンに帰ろう、と雪の中出かけていくルイ、そこからロールヘンが死ぬ描写も恐らくは夢というか幻なのかなという気がしますね。
第九を作るのは当然ながら死ぬ前なのですが、ロールヘンの死・ロシアでのナポレオンとの会話・運命との出会いのあたりは、死中をさまよった感じの幻想なのかなと。
さすがに初恋の人を無下に殺さないだろうなっていう勝手な希望です)
この辺りは史実と少し織り交ぜながら、よりドラマチックに、そして音楽を作る(=舞台を作る)ことに命を懸けた人の一つの物語の最後としての演出かなと感じました。
歓喜の歌を『どう音にしたらいいだろう』と悩みながらピアノを弾くルイのシーンから、どうしても泣けてしまってぶわっと感情が高まるのを感じました。
生きている、という感じがするのかな。
舞台を見ている、生でその音を、声を、熱を感じている、という実感が湧くからなのかもしれない。
静かに終わるのではなく、「人生は楽しかった!」と喜びに満ち溢れる感じで終わるのが、音楽って素敵なだと思わせてくれる気がして。
もっと!と望海さんが望むと、大きな声がさらに大きくなり、びりびりと空気を震わせるくらいの力強さで。それが本当に素敵でした。
そして、「喜び歌え!あなたと!」とベートーヴェン……望海さんのほうを全員が向いて腕を差し伸べてキラキラの笑顔で歌っているのが、溜まらなくぐっとくるのでした。
観劇出来て幸せでした。
 
 
次はレビューの方を更新します。たぶん。